2023/12/03 15:41
こんにちは。ALTSTONEです。
砥石の「硬さ」については、巷で色々な情報が乱れ飛んでいるように思います。
例えば、
「ステンレスなど柔らかい鋼材包丁には柔らかい砥石がよい、ハガネなどのの硬い包丁には硬い砥石がより」とか、
「硬い方がよく研げる」とか、「柔らかいから研げない」とか、です。
自分は常々、なんか違うなぁ、正しくないなぁ、なんて悶々とと思いながら過ごしていたので書かせてください。
砥石は、製法や使用している研磨剤によるアタリの違いなど、硬さ以外の要因なども絡み合ってその性格が違ってくるので、
一般の方には何が要因でそうなっているかを判断するのは難しく、
上にあげたような正しくない(少なくとも作り手の感覚とは違う)意見が出てきてしまうのかなと思います。
様々な要因が絡み合う砥石はやはり奥が深く、いっしょくたに話すとポイントをお伝えすることができないので、
ここでは硬さ以外の要因はいったん無視してお話したいと思います。
硬いと滑りやすい
まず、砥石に限らずですが、物質は硬くなればなるほど摩擦係数が低く滑りやすくなるという特性があります。
砥石も例外ではありません。
硬くなればなるほど、刃物鋼材の食い付きは悪くなります。
砥石と鋼材のどちらか(あるいは両方)が硬くなればなるほど滑りやすくなるのです。
この基本的なことを抑えておくだけで、砥石の選び方も違ってくると思いますので是非覚えておいてください。
研削のメカニズム
そもそも砥石は、刃物との摩擦により砥石自体が少しずつ削れながら研磨剤を放出し、その研磨剤を砥石と包丁の間で転がろことで金属を削って行きます。そのため、砥石が硬ければ硬いほど研磨剤の放出量は少なくなり、研削力としては弱くなります。
硬い砥石
「硬い砥石」は食い付きが悪く研削力が弱い傾向にあることを上で書きましたが、それでは、硬い砥石の良さはどこにあるのでしょうか。
硬い砥石の1つ目の利点は、平面維持性が高く、また刃物を少しずつ削るため、刃先の微調整など緻密な刃を付けるのに向いているということです。大工道具など、精密さを追求したい場合に硬めを好む方もいらっしゃるようです。
2つ目は減りにくいことです。
頻繁に面直しする必要がなく、減るスピードが遅いので経済的です。この2つ目の利点が、一般的なご家庭での実用の場面では意外とありがたく感じられたりします。
砥石が硬くてもご家庭で最も使われているステンレス包丁であれば、特に相性が悪いということもありませんし、むしろ砥石の面直しの頻度が少なくてすむので楽だというのがその理由です。
一方で、「硬い砥石」は鋼材を選びます。
上でも書いたとおりですが、「硬い砥石×硬い包丁」というように硬い材質どうしの組合せでは、お互いが喧嘩し合って包丁が砥石に食い込まないのです。
いわゆる「食い付きが悪い」とか「上滑りする」と表現される研ぎ感になり、包丁は削れにくくなります。
研いでいて、「包丁のかかりが悪いな」「滑りやすいな」と感じたら、砥石か包丁のどちらかが硬すぎる可能性があります。
柔らかい砥石
「柔らかい砥石」は鋼材を選びません。
(セラミックやチタンなどの特殊鋼材は別ですよ。誤解のないように申し添えさせていただきます。)
研磨剤をよく放出するので、硬度の低いステンレス包丁はもちろんのこと、高硬度のハガネ包丁にもよく食い付いて削れます。
1つの例としてですが、刃欠け修正をしたい時などに使用される、特に研削力の強い、緑色をしたGC研磨剤(グリーンカーバイド)を使用した荒砥石が各社から販売されていますが、研削力が重視されるGC荒砥石に柔らかい砥石が多いのはこのためです。
また、包丁の場合、刃線が直線ではなくわずかに曲線をおびていますので、少し柔らか目の砥石の方が刃の全体に当たりやすく研ぎ易いです。
つまり、適度な柔らかさがある砥石の方が、鋼材を選ばず包丁の曲線刃でも研ぎ易く、オールマイティーに扱いやすい砥石と言うことだできます。
その他にも、和包丁の地金を曇らせたいとき(化粧研ぎ)にも砥泥が多く出る柔らかい砥石が重宝するのですが、
この辺りは和包丁の見た目の仕上がりにまでこだわる上級者向けの話になりますので、ここでは割愛します。
ここまで書くと、
きっと「いやいや、〇〇の〇〇砥石は硬くても研削力があって、しかも鋼材を選ばないじゃないか」という声が聞こえてきそうです。
その辺りに関しては、
「硬さ(硬度)」だけでなく、それ以外の他のいくつかの要因も絡み合って砥石の個々の性格が出来上がっていますので、違う要因でそのように感じていらっしゃる可能性があります。
皆さんが「硬さ」だと思って感じていた研ぎ感は、実は、硬さではなく密度によるものだったということが往々にしてあるのです。
今回は、「硬さ」に着目した話としてご理解ください。
まとめ
[硬め砥石]
・刃先の微調整など緻密に研ぎたい人向き
・平面維持性がよく、減りにくい
・硬い鋼材と相性が悪い時がある
[柔らめの砥石]
・曲線的な刃の包丁でも研ぎ易い
・鋼材を選ばずオールマイティ
・見た目の仕上がりにこだわる上級者は柔らかい砥石に帰ってくる (人それぞれ)
皆様の研ぎライフの一助になりますように。
それでは。ALTSTONEでした。